環
整数の掛け算を思い浮かべてみる. 掛け算の定まった整数には, どのような性質が見られるだろうか.
まず, 任意に選んだに対して,
を満たす. すなわち, 結合的である. たとえば,
である. に限らず全ての整数についてこれが成り立つ. 整数の掛け算はどの順序で計算しても同じ結果となるのだ.
この他, が存在して (※ただのです. のね.) 任意のにについて,
となる. すなわち, 乗法の単位元が存在する.
しかしながら, となるは存在しないため, 必ずしも逆元は存在しない. (少なくともの逆元, つまり逆数は存在しない.)
以上のことから, 整数の掛け算は, モノイドをなすことがわかる.
さらに,
という性質も満たす. これを分配律 (分配法則) という.
たとえば, を
のように計算しても, あるいは分配法則を利用して
のように計算してもよいことを, わたしたちは知っている.
整数の足し算と掛け算とを考えると, 足し算については可換群に, 掛け算についてはモノイドになっており, 分配律が成り立っていることがわかる. このような代数的構造を環という.
例
整数 を同値関係 によって類別して得られた同値類に整数 同様に加法を定めると可換群になるのであった. この類に次のように乗法を定めることによって, 乗法についてはモノイドをなし, また分配律 (分配法則) が成立するため, 環をなす.
で割って 余る数を と表すことにして,
より, 乗法に関する結合律が成立,
より, 乗法に関する単位元 が存在し,
から, 乗法と加法について分配律が成立している. よって, これは環である.
この環を剰余環 といって, 暗号理論, 暗号技術のいたるところに顔を出す.